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ベトナム 1/汗(中村季節)

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『ベトナム 1/汗』
2025年11月30日 発行
著者:中村季節

【ベトナム1/汗】
そこらのチワワよりビビリでペーパードライバーの〝私〟がベトナム大群バイクの一味に加わるまでの旅の記録。上下巻の上。

はじめに
ベトナムに行ったことはなかった。しかし私は、どこかにいかねばならなかった。コロナ渦のどたばたによって一度は永住を決意したイギリスからの帰国を余儀なくされた私は、ちょっとのつなぎのつもりで始めた東京アルバイト生活にあぐらをかいてもう数年が経過、気づいたら30代も半ばを過ぎていた。実家の2階で石油ストーブをたいて種類のわからない長い犬とともに転がりながら雪見だいふくを半分こにしておもちふわふわだねなどとつぶやいていたそのとき、あれ、あんたの人生いま大丈夫そ? という根源的な問いがいにしえのギャルの形をとって私の眼前に姿をあらわした、あなたいったい誰ですか?! 20年前のお前の魂だよ、ってかマジでなにしてんの? その服終わりきってるよ? 穴の空いた明太子色のスウェットをきた私は突然の黒ギャル及び人生の選択の訪れに恐れおののき、それから数ヶ月をただ怯えて過ごした。そしてある冬、バイト先の床の溝に挟まっているこぼれたココアの固まったやつを竹串でほじくりまわしていたら、ああ、ここまでか、と思った。私はよくやった。もう十分に逃げた。そろそろ、次のチャプターへ進むべきだ。
 その日の夜、建設現場から帰ってきた父母の木屑まみれの作業着をたっぷりの洗剤とともに洗濯機に放り込んでから、居間で糖質70%オフビールを傾ける父に「私も、大工をやるよ」跡を継ぐ、と告げた。腹をくくった。朝5時起き週6日現場生活の幕開けだ、そうか、それなら明日からでもいいぞとうれしそうに父がいう――あ、ちょっとちょっと待って待って。タイムタイムタイム。「うん、やる、やるんだけどね、バイトやめてからちょっとだけ旅にでるから、そのあとスタートで」「え、どこに?」「べ」ベトナム。と私は答えた。そうなの? と我が魂の黒ギャルが驚いていた。まっとうな人生の訪れを目の前にした私の最後の悪あがきだった。
実際問題貯金などほぼないに等しい状態の私に、まとまった長旅が可能なのは東南アジアのどこかしかない、そうか、確かに、ベトナムか。いいんじゃないか。なんだっけ。バンミー? とかあるんだっけな。よく知らんけど、とりあえずスカイスキャナー開いて一番安い航空券、ホーチミン行き片道24000円、これで決まりだ。とりあえずいってから後先考えればよろしいな、まずとにかくいってみるべし。そうしてはじまった、私の15日間のベトナム旅の記録です。

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