才能(ことさら出版)
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『才能』
ことさら出版
才能が欲しいと言うとき、私はだいたい“魔法”をねだっている気がする。努力や経験や時間の話をすっ飛ばして、いきなり結果だけを手のひらに落としてくれる都合のいいやつを。キラキラとしたスター性というより、もっと実用的な魔法。例えば「このコーヒー一杯で相手の一日が少しマシになる」とか「この一文で誰かの肩の力が抜ける」とか、そういう種類の“効き目”。私はそれを全部「才能」という箱に放り込んで、「いいなあ、才能」と言ってしまう。言い換えると、才能が欲しいんじゃなくて魔法が欲しい。自分の不安を一発で無効化してくれるような免罪符が欲しい。いい歳をして。
当然、そんな魔法なんてない。結局は手を動かす時間に戻される。豆は雑な管理をすれば美味しさが損なわれるし、ミルは手入れをしなければ機嫌が悪くなるし、お菓子を焼くオーブンは時間に対していつだって厳密だ。文筆作業ならもっと厳しい。書き始めの勢いは最初の三行でいつも息切れするし、「今日、私イケるかも」と思った夜ほど、翌朝読み返しては顔が熱くなる。才能ってやつが本当にあるなら、そういう赤面を先回りして消してほしい。推敲を省いても、ちゃんとした文章が出てきてほしい。いや、推敲はする。するんだけど、本当にしたいのは推敲じゃない。推敲しなくても良い文章を書けるような人になりたいのだ。ほら、ここでも魔法をねだっている。 (とんこつたろう「魔法は降ってこない」より)
【同人誌|A5判・36ページ|1000円+税|2026年4月20日発売】
『ZINE「才能」』は、以下の寄稿者の皆さんが、「才能」をテーマに書き下ろした原稿を収録したエッセイ集です。
【寄稿者・収録原稿】
・うえぽん「見つけてくれた人」
・澤村伊智「妹、ヤンキー、放送作家」
・とんこつたろう(Reef Knot Coffee店主)「魔法は降ってこない」
・ナカガワマサミ「いつか来る手放す日」
・フレネシ「裸体を描きたい」
・ことさら出版「私がオリンピアンだった頃」
(版元サイトより)
楽しそうだと始めてみて、うまくいかなくなったとき。「才能がないからだ」と逃げたくなる。でもそれは「逃げたいだけ」で……。「才能」というあやふやで、ときに鋭利なことばの周辺にあるものに想いを馳せることができる本。ちょっとヒリヒリしていて好きです。(店主)
